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原発の今後を考える。
1.5月6日、菅総理から浜岡原発の停止について要請がなされました。福島の原発の収束にこれだけ難航し、放射性物質を大量に飛散させているのですから、国民の「安全第一」の考えは十分理解できます。しかし、事前に資源エネルギー庁にも、電力会社にも、何の連絡もなく、唐突な印象はぬぐえません。その後の電力の安定供給の確保をはじめ、エネルギー供給の全体像、産業活動への影響など、十分に検討しないと、国民生活、経済への影響は極めて大きものがあります。どういう考え、根拠をもって判断したのかを、十分に説明する必要があります。発表の前日に浜岡原発を視察した海江田経済産業大臣は、原発の停止について一言も触れていなかったのですから、しっかり説明することが必要です。

2.特に、今年の夏場の電力供給についての対応が急務です。中部電力は、浜岡3号機(点検停止中)、4号機(運転中)、5号機(運転中)の、合わせて約350万kWの供給力を前提にしていたわけですし、東京電力は中部電力からの100万kWの融通を当てにしていたわけです。関西電力に中部電力への応援を要請したとはいえ、関電は関電で点検停止中の原発が稼動しないと、厳しい状況に変わりありません。各地域とも、よほどの省エネと代替供給源の確保が必要です。他方、石油火力や天然ガス(LNG)火力を増やすことはCO2排出が増えてしまうという気候変動への悪影響や、この原油高の状況で、発電コストが上がり、産業全体の競争力にも大きな影響が出ます。いずれにしても、早急に詰めることが必要です。

3.その上で、原発の今後を考えるに当たっては、次の三つの点が重要です。
第一に、安全基準を徹底して見直すことです。津波対策と外部電源の確保策については、国内すべての原発に徹底をしたようですが、これだけでは足りません。度重なる余震にも耐えられる強度の確保、水素爆発を防ぐための建屋の排気の仕組みの設置、ベントを使う際のフィルターの設置、使用済燃料プールの位置の改善、放射能汚染水の処理対策の強化など、今回の事故、そしてその対応の検証を通じて、安全基準を強化しなければなりません。
そして、こうした新たな基準をもとに、EUが行っているように、いわゆるストレステスト(安全性の検査)を行い、それに適合しないものは、直ちに停止すべきです。いわば、原発の「デュー・ディリジェンス」(安全運転に障害となる問題のチェック)を徹底的に行うわけです。

第二に、監視・規制体制の再構築です。今回、原子力安全・保安院は、経済産業省本体から100名を超える応援を得て何とか機能していますが、保安院だけでは対応できないことを露呈したわけです。また、原子力安全委員会も震災後1ヶ月でわずか7回しか開かれず、しかも毎回の開催時間は極めて短時間です。さらに、班目委員長によれば、東電の「工程表」づくりには全く関与していないとの答弁でした。工程表について、総理や経産大臣に何の助言もしていないのです。これで責任を果たしていると言えるでしょうか。
私は、この原子力安全・保安院と原子力安全委員会を一つの組織にし、「原子力安全庁」(仮称)を創るべきだと考えています。警察庁と同様に担当大臣を置き、米国NRCのように、原子力の専門実務者を500~1000人組織することが必要ではないでしょうか。

第三に、太陽光、風力、バイオマス、地熱、潮力といった自然エネルギーの供給を大幅に増加させる支援の仕組みの検討・導入を急ぐことが必要です。しかし、これらが直ちに、現在国内の全電力供給の約3割を担っている原子力の代わりになるわけではありません。発電の安定性や導入コストも考えなくてはなりません。しかし、早急に自然エネルギーの導入加速のための対策を求められているのも事実です。

4.いずれにしても、今のままの原子力政策の体系・体制では、この危機に対応できないことが明らかになったのですから、今のまま原子力を推進する、というわけにはいきません。上記のような点について、冷静に、かつスピード感を持って検討・実行することが大切です。